里父の発見
彼女は、あと数か月で18歳になる。
ゴールである自立に向かって、どんな人になりたいのか、将来何をしたいのか、そのために何を学びたいのか。今、とても大切な時期を迎えている。
彼女が我が家にやってきたのは、もう16年近く前になる。
その当時、我が家の近くには自然が残っており、小川が流れる小さな森があった。そこへ連れて行ったときのこと、突然大声で
「ムシ、ムシ、ムシー!」
と泣きわめいた。どこにも虫などいない、と思ったが、よく見ると小さなアリが一匹いた。
かと思えば、急に道に飛び出そうとするので、必死に抱きかかえたこともあった。
生まれたときからほとんど施設の中にいて、外に出るときは集団で一緒に行動してきた彼女にとって、アリは怖かったのだろうし、急に飛び出したら車にひかれるかもしれないということは、学習できていなかったのだ。
考えてみれば、家庭での生活は結構不規則で、変化に富んでいる。
食事の時間ひとつとっても日によって違うし、休みの日には、ブランチと称して朝・昼兼用になったりもする。決して、朝、昼、晩3食決められた時間に食べることはない。
家によって異なるだろうが、特にこどもが小さいうちは、あちらこちらに連れていく。そうした変化のある生活を送る中で、こどもはいろいろなことを自然と学んでいくのだということを、本当に実感させられた。
実子の長女が、小さいころから一人で遠くの学校まで通っていたこともあり、少し慣れてきたところで、彼女にも習い事の行き帰りを一人でさせてみた。
そんなある日、電話をかけてきて泣き声で
「パパ、電車の中に傘を忘れちゃった」
と言う。
「それで、どうした?」
「駅員さんに言って探してもらうように頼んだ」
「ちゃんと駅員さんに言えて、えらかったね!」
一人でやらせてみると、アリを見ただけで泣いていた子どもが、だんだんとしっかりしてくる。
やがて中学に入ってスポーツに明け暮れ、仲のいい友達ができたり、ちょっとしたいじめにあってみたり、、、高校に入ったら親が驚くような部活動を選んだり、、、そしてあっという間に進路を考える時期になってしまった。
最近、この16年の間に、いったい彼女と私のどちらがより多くのことを学んだのだろうか、と考えることがある。
彼女が来なければ、決して知ることがなかっただろうと思われる世界を、彼女は私に見せてくれた。ありがとう。
(T.A.)